デザイナーコラム

口腔内スキャナーのデザイン

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近年、歯科医療器具の進化が目覚ましい中で、特に口腔内スキャナーはその革新性を象徴する存在となっています。
デジタル技術の導入により、従来の型取りに比べ患者にとって快適で、歯科医師にとっても効率的な治療が可能になりました。

引用:iTeroホームページ https://www.itero.com/ja-JP/our-solutions/itero-lumina

ここで注目したいのは、スキャナー自体のデザインです。
プロダクトデザイナーの視点から見ると、口腔内スキャナーには見た目の審美性よりも使う側の操作性や持ちやすさ、使いやすさが最も重要です。口腔内スキャナーは、歯科医師が日常的に使用する機器であり、その操作性は治療の質に直結します。

例えば、iTero Lumina3Shape TRIOS、そしてMedit i500などの製品は、いずれもエルゴノミクスに基づいたデザインが施されており、長時間の使用でも疲れにくいデザインになっています。これらのスキャナーは、機能的でありながらも、視覚的にもスムーズな操作が可能でしょう。

iTero Lumina™ https://www.itero.com/ja-JP/our-solutions/itero-lumina
3shape TRIOS https://www.3shape.com/ja/scanners
Medit i500 https://fordynet.fordy.jp/products/2651

しかしながら患者にとって重要なのは、スキャナー本体の形状よりスキャナーによって生成される画像のリアリティです。自分の口腔内の状態をリアルに把握できることは、治療に対する信頼感を高める重要な要素となります。
特に、スキャナーが生成する画像があたかも写真のように鮮明であればあるほど、歯科医師の説明は説得力を増し、患者の理解を深めます。
そのため、患者の視点では、スキャナーのデザインや外見は二次的なものであり、実際にはモニターのデザイン、画面の信頼性や見やすさが重視されます。

医療器具のデザインに求められるポイントは、一般の家電製品とは異なります。
多くの消費者が店舗でデザインを比較し、見た目の美しさやカッコよさを重視する一方で、医療器具はその目的が根本的に違います。医療器具のデザインは、進歩性や新技術を体現するものであり、見た目の審美性よりもユーザー(医師)への信頼性、操作性が最優先される点で、一般的な家電デザインとは全く異なる性質を持っています。

また、口腔内スキャナー本体のデザインには、明確な差異が少ないことも注目すべきポイントです。
特許庁に意匠権を認められているスキャナー本体のデザインは11件(2024年9月現在)しかないことでも理解できます。

今後も同じようなカタチが主流となり大きな変化が見られなくなった場合は、使い方(スキャン方法)が進化していないことになります。

使い方の進化には「動詞のデザイン」が求められます。
スキャナーという【物体のデザイン】ではなく、スキャンするという行為のデザイン】をすることがポイントです。
現在のスキャンの行為は、「患者は大きな口を開け続けている」「歯科医師は口の中を覗きながらスキャナーの先を口の中に入れている」・・・となります。

例えば、飴玉のようなスキャナーがあれば如何でしょうか。
待合室で口の中を転がしていただけで、診察室に入った時には自分の口の中のスキャン映像が写真の様にリアルにモニターに表示されている!という時代が来るかも知れません。

プロダクトデザイナーとしては、歯科医師にとっての使いやすさや操作性を最優先にしながらも、歯科医師と患者双方の信頼感を高めるための要素を追求していく必要があります。
医療器具のデザインは、今後も患者と医療従事者の両方にとって、快適で効率的な治療環境を提供するための鍵となるでしょう。


ブランディングアドバイザー
二級知的財産管理技能士
下尾邦之

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