デザイナーコラム

用途開発(デュポンの秘密)

投稿日:2023年6月22日 更新日:

NY駐在の頃のゴルフ仲間の1人に、デュポン社からの出向でNYに来ていたA氏がいました。デュポン社と言えばテフロン加工で有名な米国デラウエア州の大企業。 全米の著名大企業がデラウエア州に本社を設置するのは、法人税が無い、拠点を州内に置く必要が無い、財務や株主情報の報告義務がないなど、デラウエア州には企業にとって非常に都合が良い会社法があるからだと聞きました。

写真:日本最大の化学ポータルサイト「Chem-Station」より
https://www.chem-station.com/chemistenews/2013/10/post-749.html

デュポンと聞けば、テフロン加工のフライパンを思い出す人も多いことでしょう。テフロンとはデュポン社の登録商標名でフッ素樹脂の一種ですが、有名な誕生秘話があります。
1938年のある朝、別の研究装置の中に偶然発見された白い粉状のものが後のテフロンになったそうで、その粉を調べてみれば、熱に強く(耐熱性)、燃えにくく(難燃性)、高濃度の酸やアルカリ等の薬品に強い(対化学薬品性)。そして日光に強く(耐候性)、当時では最も摩擦係数が少ない物質であり非粘着性も高いということが分かりました。

デュポンは1941年に特許を取得し1945年には商標を出願し、その後の研究開発で幅広い分野で産業応用され、1960年にテフロン加工のフライパンが世に登場したのです。

A氏の話で大変興味深かったのは、世間には知られていない社外秘的な話です。
「こんなのができたけど、何かに使えないかな・・・?」
ある日技術者が、白い粉と資料を持ってデザイン部署に来たそうです。

デザイナーは、商品の色や形を決めるだけでなく、デザイン思考での問題解決や新素材の用途開発も職責の一つですが、正にこの技術者は偶然発見した「高性能な白い粉」の用途開発をデザイナーに依頼してきたのです。
デザイナーはアイデアを展開するにあたり、設定したユーザの思考と行動を5W1Hに沿って発想を広げますが、テフロンの大ヒットには「主婦」と「料理」がキーワードだったようです。

油が不要、焦げない、焦げないから短時間で楽に洗える、洗剤も節約できるという便利さだけでなく、油を使わない健康志向と油と洗剤の排水を低減できる環境志向という当時の社会動向が追い風となって、「フライパンにコーティングする」という用途開発が大ヒット商品につながったと聞きました。

むし歯予防に塗布するというフッ素の用途開発は既に50年以上も前から普及しているそうですが、また新たな素材が大発見された時には、用途開発のジャンルに「むし歯予防」というキーワードを追加して貰えるようにA氏にメールしたいものです。

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クオリアグローバルマネジメント株式会社
ブランディングアドバイザー/二級知的財産管理技能士
下尾邦之

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